聴神経腫瘍

 

 聴神経は聞こえの神経、蝸牛神経と、バランスの神経、前庭神経より構成されています。聴神経腫瘍は前庭神経より発生するので、前庭神経鞘腫と呼ぶのが正確ですが、聴神経腫瘍という呼び名も一般的に通用します。神経鞘腫は神経の束を包んでいるシュワン細胞より発生する腫瘍で,原発性脳腫瘍中およそ10%と頻度の高い腫瘍で、成人に好発します。脳の外側にできる腫瘍でゆっくりと大きくなる良性腫瘍です。脳神経では、前庭神経(第8脳神経いわゆる聴神経)に最も多く,次いで三叉神経,稀に顔面神経,舌下神経,舌咽神経にも発生します。

 聴神経腫瘍ができる場所は内耳道という骨の中の神経が通る孔の中です。腫瘍がだんだん大きくなると、骨の孔の中から頭の中に跳び出してきます。頭の中では小脳と脳幹の橋の間に大きくなりますので、小脳橋角部腫瘍とも呼ばれます。最初の内は、聞こえにくい、耳鳴り、めまいなどが主な症状です。顔面神経も内耳道を通りますが、少しずつ大きくなるのと、比較的強い神経なので、かなり大きくなっても症状はでません。むしろ顔面のしびれや痛みなどの三叉神経の圧迫症状を訴えます。とても大きくなると、バランスをとって歩行することができなくなります。

 聴神経腫瘍と診断された患者さんでは、手術摘出、ガンマナイフなどの放射線治療を行う場合、また、経過観察をすることもあります。手術の適応となる患者さんは腫瘍が大きく、小脳・脳幹を圧迫している場合、また、若い方で根治的治療を希望する場合、また、腫瘍が小さく聴力を残して根治したい場合、ガンマナイフ治療の後に増大してきた方などです。

 これまでに66例の摘出術を行っています。顔面神経の機能を温存しながら腫瘍を全摘出して、患者さんが病気から離れられるのが目標です。聴力が残っている 2 cm以下の腫瘍では聴力も温存します。聴神経腫瘍の手術では、剥離面は大事です。この腫瘍では腫瘍被膜(神経周囲膜)には腫瘍細胞はいないことが確認されていますので、薄く引き延ばされた神経に、薄いストッキングのような膜を寄せて剥離します。この被膜には腫瘍動静脈が流れていますので、神経を栄養する血液のながれを妨げないように剥離を行います。こうした手術の工夫と、感度の高い顔面神経モニターができるようになり、術直後から多くの方が顔面神経麻痺を起こさないですむようになりました。

 術前顔面神経麻痺のない58例中42例の方(72.4%)が術直後から、ほとんど顔面神経麻痺のない状態で過ごし、14例では術後一時的に麻痺が出現、その後に回復しています(24.1%)。 2例ではG3以上の麻痺が残存しました(96.5%の温存率)。聴力が残っている 2 cm以下の腫瘍17例中14例では聴力が温存されました(82.4%)。

聴神経test 3

聴神経test 2