ガンマナイフに代表される定位放射線治療は、患者さんに負担なく、切らずに治せる治療法として普及しています。放射線照射は、従来から外科的摘出術、化学療法と並ぶ腫瘍、特に癌などの悪性腫瘍治療の大きな柱です。
放射線は眼に見えずに身体を通り抜けて腫瘍に到達し、腫瘍を壊死、あるいは腫瘍の増殖を抑制させます。まさに切らずに病巣に到達することのできる治療法です。腫瘍を治せるか否かについては、腫瘍の放射線感受性に依存します。
『切らずに治せる』というキャッチフレーズは、特定の腫瘍については正しいのですが、すべての患者さんにあてはまるわけではなく、腫瘍の性質を理解して適応を十分に判断して治療に用いる必要があります。
ガンマナイフは1980年代中頃に臨床応用され、治療効果、成績が多くの症例で検討されている実績があります。定位放射線の特徴は、癌などの悪性腫瘍だけでなく、良性腫瘍、動静脈奇形などの良性疾患に効果があることです。神経鞘腫に代表される良性腫瘍に対する効果は悪性腫瘍に対する効果と異なります。
腫瘍を死滅させるのではなく、腫瘍を生きたまま増殖を止めるという効果を期待しています。何年かかけて、少しずつ小さくなり、照射前の７０－８０％を保持するというのが期待される効果です。実際どの程度の年数、効果を保持できるかは、まだわかっていません。ですから、場合によっては、比較的短い年数で増大し、摘出術が必要になる症例が少なくありません。
良性腫瘍に対する効果の機序の一つは、腫瘍血管の閉塞があげられます。腫瘍細胞の増殖抑制効果はありますが、実際のところよくわかっていないのが現状です。腫瘍血管の壊死のために、治療後しばらくして脳浮腫が起こりやすくなります。
また、同じ機序で腫瘍内嚢胞(水袋)が大きくなって脳を圧迫することがあります。また、視神経は放射線に弱く、治療域の線量で障害され（しばらく経ってから）、視力がなくなることがあります。
また、腫瘍増大抑制効果が現れるまでに、半年ほどかかるために、大きな腫瘍ではその間に増大し、困った症状がでてくることがあります。稀ではありますが、放射線照射により誘発される悪性腫瘍化の可能性があります。
サイバーナイフはガンマナイフより遅れて、1990年代初期に米国 （STANFORD大学のDR. ADLERにより）で開発された定位放射線治療です。ガンマナイフは現在国内に51施設設置され、サイバーナイフは現在27施設まで増えて、このところ導入する施設が少しずつ増えています。これまで、私は主としてガンマナイフを併用した治療を特に頭蓋底腫瘍に対して行ってきました。塩田記念病院では開設当初より、サイバーナイフを導入して実績を挙げています。
サイバーナイフとガンマナイフの比較はあまり行われていません。ガンマナイフでは頭部をピン固定して全く動かないようにして、コバルトを線源とするガンマ線を多方向から、病巣に集中させる方法です。
サイバーナイフは、小型軽量化した直線加速器から生ずるX 線を病巣に集中させる方法です。小型軽量化直線加速器をロボットアームに装着しています。位置認識システムにより、病巣の細かな動きを追尾し、多方向から病巣にX 線を集中させます。患者さんの固定は、通常の linac照射同様にplasticの face maskで行います。
固定の方法からすると、ガンマナイフの方が精度は高く (0.2~0.5 mm)、サイバーナイフは少し精度が落ちますが（1 mm以下）、固定の痛みがなく患者さんは楽です。従って、分割照射（何回か別の日にわけて照射すること）が可能になります。
分割照射は正常組織への障害を低く抑えることが可能になり、視神経の近くの病変、また、比較的大きな腫瘍への照射が可能になります。ガンマナイフでも分割照射は不可能ではありませんが、実際には期日を開けて（2週間以上）同じ操作を繰り返すことになりますので、患者さんにとっては負担になります。
ガンマナイフとサイバーナイフでの放射線照射量を直接比較するわけにはいかないのが現状です。実際に治療を受けた患者さんをfollowさせていただいた印象は、サイバーナイフでの照射は効果が少し強い分、副作用（照射直後に少し気分が悪くなる方が多くて、一年後に脳浮腫を起こす頻度が少し高い）も少し多いと感じています。
おそらく、脳浮腫を起こしにくい頭蓋底腫瘍や頭頸部腫瘍には有効ではないかと感じています。ようやく近年になり、サイバーナイフでの臨床論文が数多く出版されるようになりました。正確な効果と副作用の動向が明らかにされると期待しています。
写真：サイバーナイフ
