脳の血管は他の身体部位の血管と比べて壁が薄くしなやかにできています。おそらく、脳の血管は縮んだり拡張したりして脳の圧をコントロールする機能を併せ持っているためと思われます。
このしなやかさと裏腹に脳の血管は壁が弱く、炎症などで壁の繊維に瑕がついて修復が遅れると、持続的な強い血流の力で壁が膨らんで動脈瘤ができます。女性に多いのは男性に比べて血管がしなやかにできているためと考えられます。
また、動脈瘤ができやすい家系があることは、家系的に血管の壁の繊維が弱いためと考えられています。
動脈瘤は壁が薄いので、破れることがあります。破裂すると、クモ膜下出血になり、しばしば重症となります。破裂した動脈瘤は再破裂しやすいので、治療は、直ちに、開頭してクリッピングを行うか、血管内手術で瘤の中に細いプラチナ製のコイルをいれて塞栓し、再出血しないように治療します。
ただ、破裂出血による脳の損傷、出血の後の脳血管攣縮による梗塞が回復を妨げます。破裂後に治療を受けて、病前の状態に回復する方は 30%弱といわれています。重症で病院まで辿り着けなかったり、また、手術ができない方が多いためです。
脳動脈瘤を持っている方は人口の2−6%といわれています。MRI, MRAが導入されたおかげで、こうした方が診断されるようになりました。破裂していないので未破裂脳動脈瘤といいます。
動脈瘤では壁が薄いとはいえ、本当に壁が薄い処は一部です。また、創傷治癒機転も働き、薄い壁の修復もされます。全の人が破裂するわけではなく、ごく一部の方が破裂してくも膜下出血を起こします。
最近の日本の研究によると、年間に破裂する確率は1%弱です。 10年間で 9.1%の方が破裂する単純計算になります。ただ、大きなもの、形が悪いもの、内頸後交通動脈、前交通動脈瘤がより破裂の危険が高いと報告されています。未破裂脳動脈瘤と診断された場合、経過観察か治療すべきかを判断します。
動脈瘤の部位、大きさ、形、また患者様の受け止め方、生活、考え方など一様ではありません。治療は現在のところ、開頭クリッピングか血管内コイル塞栓術から選択します。クリッピングに関していえば、手術は破裂例に比べると格段にリスクが少なくなります。
とはいえ、クリッピング、血管内コイル塞栓術にしても手術に伴う困った合併症は、共に全国統計で4−5%あるとされています。将来、詳細に破裂しやすさを予測する手段が開発されて、薄い壁を補強する簡便で効果的な治療法の開発が課題になると思います。